薬の基礎知識

 
 
 

●薬の作用

 イヌの病気の治療に用いられる薬は、作用のしかたから大きく2つに
 分けられます。
 第1は、イヌの体、つまり細胞にはたらく薬です。
 これには病気によってそこなわれた機能の欠陥をおぎなうものや、
 逆にはたらきすぎの機能をおさえるものなどがあります。
 第2は感染症の治療に用いられる薬で、原因となる寄生体(病原体)、
 たとえば細菌やウイルス、寄生虫などに作用します。
 このタイプの薬には、体内に入った病原体を殺す(殺菌)ものと、
 その発育や増殖をおさえるもの(静菌)とがあります。
 ちなみに抗ガン剤は正常な細胞には効いてほしくない薬なので、
 第2のタイプの薬になります。

 イヌの体の細胞に作用する薬の多くは、症状を軽くすることが目的で、
 あとはイヌ本来の自然な治癒力にまかせます。
 このような治療法を「対症療法」といいます。

 これに対して病気の原因となる病原体を攻撃する治療法を、
 「原因療法」といいます。
 この治療に使われる薬は、イヌ自身の細胞には作用しないか、
 もしくは毒性が低い、つまり病原体にのみはたらくことが求められます。



●薬の投与法

 薬の多くは体内に吸収されて血液中に入り、全身に運ばれることを
 目的としています。
 それがスムーズにいくよう、病気の種類や症状によっていろいろな
 形態の薬を使い分けます。

 薬の形態のことを剤形といいますが、これには注射剤、液剤、散剤(粉末)、
 錠剤、カプセル剤、軟骨、クリーム剤、吸入薬などがあります。

 薬を与える方法にも、口から飲ませる(経口投与)、注射をする(注射投与)、
 体の表面につける(外用)の3つがあります。
 イヌの状態や治療の状況に応じて、3つのうちのひとつまたは複数の方法を
 とります。同じ薬でも、投与法が違うと効き方が違ってきます。

  ①経口投与

  錠剤、液剤、散剤を口から強制的に飲ませる、あるいは食餌にまぜて
  与える方法です。口から入った薬は、主として省庁で吸収されます。
  この方法は簡単ですし、薬の作用が比較的長時間続きます。
  また、投与直後に薬の血中濃度が急激に上昇することがないので、
  急性の副作用がおこらないという利点があります。

  ただし、薬の種類によっては消化管内で分解されてしまい、体内に
  吸収されないものもあります。
  そのため、すべての薬にこの方法が適しているわけではありません。


  ②注射投与
  
  注射をすると薬が分解されずに体内にすみやかに吸収されるため、
  効果が確実ですし、緊急の治療にも適しています。
  病気の種類によって注射の場所が異なり、静脈内注射、筋肉内注射、
  皮下注射などがあります。

  注射の場合、薬の作用が急速にあらわれるため、注射直後の経過を
  注意して観察しなければなりません。
  また、注射には消毒などの処理が必要なため、ふつうは病院内でのみ
  おこなわれます。

  ただし、慢性疾患などのために長期にわたって同じ薬を与えつづけな
  ければならず、しかも経口剤がない場合には、獣医師から飼い主が注
  射法を教わり、家庭でおこなうケースもあります。
  (糖尿病のインスリン注射など)


  ③外用

  体の表面に薬をつけることを外用といいます。
  外用薬には、皮膚に塗る軟膏やクリーム剤、目につける点眼薬、直腸
  に挿入する座薬などがあります。イヌの場合、皮膚に軟膏などを塗る
  とすぐになめとってしまうので、適切な方法とはいえない場合も多い
  ようです。
  どうしても外用薬を用いる必要があるときには、イヌの首にエリザベ
  スカラーをつけて、患部をなめにくくする方法あります。



 ●家庭での薬の与え方

 動物病院では経口投与用の薬を出すことが多いので、
 家庭での与え方について注意点をのべておきます。
 薬が体内に吸収されて血液中に入っても、その血液中における濃度
 (血中濃度)があるレベル以上に達しないと薬は作用を発揮しません。
 このレベルを「閾値」といいます。閾値は薬の種類によって異なります。

 閾値から上の、薬の効果がつづく濃度範囲を「治療域(有効濃度)」とよびます。
 それを超える濃度になると、薬は有害な作用をおよぼします。
 いわゆる副作用です。このような濃度領域を「毒性域」とよびます。
 
 一般に薬による治療では、血中濃度が治療域に保たれていることが重要です。
 そこで獣医師に薬を処方されたら、その指示にしたがってイヌに服用させま
 しょう。

 飲ませ忘れをしないように注意することはもちろんですが、
 仮に忘れてしまっても、その分をまとめていっぺんに与えたりしては
 いけません。
 血中濃度が急激に上昇し、副作用をひきおこす可能性があるからです。

 薬を与える時間と食餌との関係にも注意してください。
 食前と食後では、投与後の薬の血中濃度の変化が異なります。
 一般に空腹時に薬を服用すると早く吸収されますが、早く排泄されます。
 食後に飲むか食間(誤解されやすいのですが、食餌の最中ではなく食餌と
 食餌の間のことです)に飲むかによって、薬の効きめは違ってくるのです。



 ●薬を副作用

 薬がもたらす治療上望ましくない効果を、有害作用とか副作用といいます。
 薬を与えるときにいちばん気になるのがこの副作用ですが、薬はもともと、
 動物の体にとって本来の機能を変える効果を持つ「異物」です
 いかに安全とされる薬であっても、使用法や使用量をあやまれば副作用が
 生じることを知っておく必要があります。

 しかし、いたずらに副作用をおそれるあまり薬の使用を拒否してしまうの
 も問題です。
 薬を使用して病気を治すことのプラス面とその副作用がもたらすマイナス
 面とのバランスを、正確な知識をもとに判断すればよいのです。
 薬の副作用が気になる場合は、獣医師に十分な説明を求め、納得してから
 使用する(インフォームド・コンセント)ことも大切です。

 一口に副作用といっても、その内容はさまざまです。眠気が出るとか、
 のどが乾くといった軽い不快な症状があらわれ、薬を飲むのをやめたら
 すぐに消えてしまうという程度の場合もあります。

 しかし、体内の重要な役割をはたしている臓器、たとえば有害な物質を
 無毒化して体外に排出する肝臓や腎臓、あるいは細胞の増殖をおこなって
 いる造血器などに障害をおこす重篤なものもあります。
 後者のような副作用は、長期にわたって薬を投与しつづけた場合などにみ
 られます。

 ときには、かなり重大な副作用が出ることを承知のうえで、薬を使用しな
 ければならないこともあります。
 たとえば、抗ガン剤はガン細胞だけを選択的に殺すことを目的につくら
 たものですが、どうしても健全な細胞にまで作用してしまいます。
 しかしほかに有効な治療手段がなく、副作用を考慮してもなお回復の効果
 が大きいと判断した場合には、あえてこれを使うこともあるようです。

 とくに注意を要する薬の副作用に「薬物アレルギー」があります。
 ある種の抗生物質やワクチンは、大多数の個体(この場合はイヌ)に対して
 安全に使用できますが、ごく一部の個体はこれを排除すべき異物ととらえ、
 急激で、しかも全身性の炎症反応(ショック)をおこして、ときには死に
 至ります。
 このような場合にみられる症状としては、皮膚の発疹、呼吸困難、
 血圧の低下、腸炎などがあります。

 イヌがこの種の異常を示したら、ただちに獣医師に報告し、緊急の処置を
 受ける必要があります。

 また、妊娠中のイヌに薬を与えたときにおこる重大な副作用として
 「催奇形性」と「胎児毒性」があります。妊娠してから数日間は胎児の発生
 過程にあたりますが、この期間に胎児の遺伝子に影響を与えるような薬を母
 イヌに与えると胎児に奇形が発生する危険があります。これが催奇形性です。

 また、母体には影響しないで胎児にのみ有害な副作用をおこす薬もあり、
 これを胎児毒性といいます。

 製薬会社では、薬を開発する段階でもちろん、催奇形性の危険性の有無を
 調べています。
 しかし、そこでおこなわれるのは通常、ネズミを使った実験なので、イヌ
 の場合にはその薬が本当に問題をおこさないという保証はありません。
 妊娠が予想される場合、あるいは妊娠していることがわかっている場合には、
 やはり薬の投与には慎重であるべきです。



 ●薬の名前

 薬の名前には一般名と製品名があります。
 製薬会社では薬を開発していく初期段階では社内用のコード番号を
 つけていますが、ある程度研究が進んだ段階で、あるいは完成した
 薬を市場に出す段階で、薬の成分や作用にもとづいた名前をつけます。
 これが一般名です。

 これとは別に、市販されている薬のカプセルや箱に表示されている名前
 が製品名です。
 とくに古くからありよく知られている薬や、特許が切れて独占販売がで
 きなくなったり、特許を他社に供与した薬は、同じ成分のものを複数の
 製薬会社が製造し、それぞれ独自の製品名をつけて販売しています。

 たとえば、抗ヒスタミン剤のひとつに一般名がマレイン酸クロルフェニ
 ラミンという薬があります。
 しかしこの薬が市場に出るときには、それぞれの製薬会社がポララミン、
 シーベナ、ポラセミン、ヒスタールなどの製品名(商品名)をつけて販売
 しています。

 獣医師から薬を処方され、あとでそれについて調べたいと思ったら、医師
 のいう薬品名が一般名なのか製品名なのかを薬のラベルなどを見せてもら
 って確認しておく必要があります。


■ TEL
0968-38-5100
※現在、夜間・深夜診療を行っておりません。
 
通常診療
 
 
 
 
 
 
※現在、夜間・深夜診療を行っておりません。