ノミやダニなどの殺虫剤

 
 
 
 

イヌの皮膚は厚い毛(被毛)でおおわれており、ノミやダニなどの「外部寄生虫」の絶好の住みかとなります。これらの虫は、イヌの皮膚から血を吸って強いかゆみを与えるだけではなく、アレルギー性の皮膚炎を引き起こします。また、様々な感染症の病気の原因ともなります。更に、これらの外部寄生虫は飼い主にも被害を及ぼします。

イヌに寄生する害虫には、イヌノミとネコノミ(これはイヌにも寄生します)などのノミ類、フタトゲチマダニやオウシマダニなどの大型のダニ類、そして毛包(毛の根元の毛根)に寄生する毛包虫などの小型のダニ類があります。これらの中でも、ノミはイヌに最も普通にみられる代表的な外部寄生虫です。ダニの寄生は猟犬によく見られます。

ノミは成虫だけがイヌに寄生し、メスとオスの両方が血を吸います。メスは吸血した後で被毛の中に卵を産みます。卵はイヌの体から落ちて周囲の環境にまき散らされ、幼虫、さなぎをへて成虫となり、再びイヌの体に寄生します。

殺虫剤の使い方には、イヌの体にまいたり塗ったりする方法と、寄生昆虫のいる環境にまく方法の2つがあります。イヌの体に直接用いる場合、色々なやり方があります。乳剤、水和剤、油剤、粉剤、をイヌの毛に塗る、乳剤に薬浴させる、薬剤入りシャンプーでイヌの体を洗う、などです。

更に、ノミ取り首輪をつける方法もあります。これは、ビニールに殺虫剤を混ぜて首輪の形にしたものです。これをつけていると、殺虫剤が常に一定の濃度で広がっていくため作用が確実ですし、毒性が低いという利点があります。

最近では、イヌの体表の一部に塗るだけで、体内に吸収され全身に広がって一定期間の殺虫効果が得られる薬も開発されています。


●殺虫剤

 →ノミやダニの駆除薬

 →殺虫剤は作用の仕方によっていくつかの種類に分けられます。
  また、同じ薬でも経口薬、薬浴剤、散布剤など色々なものがあり、
  用途によって使い分けることができます。

  ▲有機リン系殺虫剤/カルバメート系殺虫剤

   ダニやノミなどの神経細胞の多くは、アセチルコリンという物質を
   使って情報を伝えています。
   この仕組みが壊れると、虫は生きていくことができなくなります。
   有機リン系殺虫剤と体系殺虫剤は、このアセチルコリンに働いて
   (アセチルコリンの分解を止めて神経を興奮させたままにします)
   殺虫効果を発揮します。

   有機リン系殺虫剤にはジクロルボス、メトリホネート、クマス、
   フェンクロホス、フェンチオンなどが、カルバメート系殺虫剤には
   カルバリル、プロポクスールなどがあります。

  ▲ピレスロイド系殺虫剤

   動物の神経細胞の膜には小さな穴(ナトリウムチャンネル)があり、
   この穴を通ってナトリウムが細胞内に入ると電流が流れます。
   こうして神経の興奮は電流の形で次々に細胞から細胞へと
   伝わっていきます。

   ピレスロイド系殺虫剤は寄生昆虫の細胞膜のナトリウムチャンネルを
   開いたままにして、神経の働きを妨げ、殺虫効果を発揮します。
   除虫菊の成分のひとつであるピレスリンと合成薬であるレストメトリン、
   ペルメトリンなどがあります。比較的安全性の高い薬です。

  ▲幼虫発育阻害剤

   寄生虫の幼虫の発育を妨げる薬です。
   ノミやダニなどの外部寄生虫の表皮は、キチンと呼ばれるかたい殻
   でできています。幼虫発育阻害剤のルフェヌロンは、このキチンの合成を
   妨げてかたい殻を作れないようにします。
   また、ピリプロキシフェンは、昆虫の変態(幼虫からさなぎや成虫に
   なる変化。羽化など)を妨げます。

   幼虫発育阻害剤は作用の仕方もユニークですが、使用方法も
   変わっています。ルフェヌロンは経口薬としても使われます。
   イヌがこの薬を飲むと、薬が体内にたまります。
   ノミがそのイヌの血を吸うと、薬がノミの卵にうつります。
   この卵は幼虫あるいはさなぎへと成長することができず、ノミが駆除
   されることになります。
   この薬は月に1回イヌに投与するだけで十分な効果があります。
   一方、ピリプロキシフェンは滴下剤(スポット剤)として使用します。

   ただし、幼虫発育阻害剤は成虫には効かないので、駆除効果はすぐには
   あげられません。
   ノミは卵から親になるまでに2~3ヶ月かかると言われます。
   完全に駆除するまでにはそれだけの期間、治療を続ける必要があります。

  ▲その他の薬

   最近、安全性の高い即効性の殺虫剤が相次いで開発されました。
   イミダクロプリドとニテンプラムは、ノミやダニのアセチルコリン
   受容体のはたらきを抑える薬です。
   前者は滴下剤、後者は経口薬として使用します。
   フィプロニルはゴキブリの駆除薬として使われており、スプレー剤
   あるいは滴下剤として使います。

☆使用の時の注意

 現在、動物への使用が許可されている殺虫剤は、その使用方法さえ守れば
 きわめて安全性が高いといえます。
 とはいえ、何かの事故で一度に多量に体内に吸収されることもあり、
 その場合は中毒症状があらわれます。
 また、まれに殺虫剤に対して非常に敏感に反応するイヌがおり、
 普通の使い方をしても軽い中毒症状を起こすことがあります。

 殺虫剤による中毒症状は、軽いものでは元気がなくなる、よだれを垂らす、
 嘔吐するなどです。
 重い場合は震えや運動障害、身もだえや痙攣などの神経症状がみられます。
 このような場合は、安静を保ち、すぐに獣医師の手当てを受けます。
 動物病院での中毒の治療には、神経伝達物質のアセチルコリンの作用を
 おさえるアトロピン、パム(PAM)などが解毒薬として用いられます。
 ただしカルバメート系殺虫剤に対しては、パムはかえって毒性を増すので
 使用してはなりません。

 通常の使い方で安全であるといっても、殺虫剤が毒物(劇薬)であることには
 変わりありません。
 飼い主が殺虫剤を使用する場合は、直接手で触れたら石鹸で手を洗う、
 保管するときは幼児の手の届かないとこに置くなど、取り扱いには十分
 注意します。

 殺虫剤のうち幼虫発育阻害剤は、イヌや人間に対する毒性はないといえます。
 というのも、哺乳類に体にはキチンからなるかたい殻はなく、毒性を発揮
 しようがないからです。
 この薬は経口薬として与えるだけではなく、イヌの飼育環境にまくことも
 できます。

 ノミやダニなどを駆除する際に大切なのは、イヌの飼育環境への配慮です。
 殺虫剤を使ってイヌの体にいま寄生しているノミやダニを駆除しても、
 環境が変わらなければ再び寄生されることになります。
 イヌの体と周りの環境を総合的に考え、対策をこうじる必要があります。
 現在、外部寄生虫の駆除には非常に多くの方法があり、自分のイヌの飼育環境に
 合った殺虫剤の種類や剤形を選択することができます。
 獣医師の指導のもとで計画的に対処することが大切です。


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