子宮の薬と避妊の薬

 
 
 
 

イヌのメスは小型犬で約6カ月、中型犬や大型犬では7~12カ月で性的に成熟し、生理がはじまります(メスの生理については173ページ参照)。メスの性周期は、「無発情期」「発情前期」「発情期」「発情休止期」の4つに分けられます(図6)。多くのイヌでは、これが年に2回繰り返されます。

陰部に出血(生理)がみられる期間を発情前期といい、出血は平均して9日間つづきます。これにつづく発情期で、交尾や妊娠がおこります。この発情期にはメスに出血や行動の変化などがみられ、「ミスメイト(好ましくない交尾による妊娠)」も心配されます。

それをさけるためのもっとも確実な方法は、手術で卵巣(ときには子宮も)をとってしまうことです。しかし、このような避妊手術をおこなうと、二度と妊娠できなくなります。一方、薬を使って一時的に妊娠を避ける方法もとられます。

メスが妊娠して胎児が成長していくと、子宮壁にある筋肉が活動を弱め、胎児を子宮内にとどめるようにします。妊娠期間の後期になると、子宮壁の筋肉が収縮して分娩に適した状態に変わります。

この命令が動物の体のどこから出ているのかはまだはっきりしませんが、胎児の体内(副腎)でコルチゾールというホルモンがつくられるのがきっかけではないかとみられています。

これに反応して母体の子宮ではプロスタグランジンF2アルファの分泌がさかんになり、それが子宮の筋肉を収縮させて胎児を外に出すのです。このとき脳(脳下垂体)からもオキシトシンという物質が分泌され、子宮の筋肉の収縮作用を助けます。

イヌは一般に安産といわれますが、これはあまり根拠のない話です。とくに小型犬では、陣痛(子宮の筋肉の収縮)が非常に弱いことによる難産がしばしばみられます。このような場合、陣痛をうながす薬が使われることがあります。

子供を産んだことのない5~6歳以上のメスによくみられる子宮蓄膿症があります。この病気は、子宮壁の内膜の増殖をおこす黄体ホルモンが関係しているといわれます。

子宮内膜が増殖するとき、そこは細菌の増殖に適した環境となります。このとき子宮に細菌が入って、内膜が化膿すると、おなかが腫れ、悪臭をともなううみ状のものが膣から出てきます。放置すると、うみが卵管から腹腔にもれ出し、たいへん危険です。


●避妊薬

 →メスの発情をおさえる

 →近年、イヌの避妊法として広くおこなわれるようになったのが、
  薬(ホルモン剤)による避妊です。
  これにはプロゲステロンが使われます。
  定期的にプロゲステロンを投与すると排卵がおさえられ、メスは
  発情しなくなって避妊効果が得られます。プロゲステロンの化学構造を
  まねて人工的に合成した薬、クロルマジノンやプロリゲストンなども使
  われます。

  これらの避妊薬には、注射剤とインプラント(埋め込み)剤があります。
  注射剤は決められたプログラムにしたがって、数カ月に1回の割合で
  投与します。最初の注射は発情休止期におこないます。
  インプラント剤はシリコンに薬を入れたもので、これを簡単な手術によって
  皮膚の下に埋め込みます。薬は徐々に溶けだして、避妊効果を発揮します。
  1回埋め込むと、約1~2年間は有効です。

  避妊をやめたければ、注射をやめるか、インプラント剤をとり出します。
  それから数カ月で、イヌは発情するようになり、正常な性周期が戻ります。

●堕胎薬

 →ホルモン剤で人口流産

 →もしミスメイトがおこってしまった場合、飼い主は人工的に流産の処置を
  とることを希望することもあるでしょう。
  その場合、外科的処置もありますが、時期によっては薬による人口流産も
  可能です。

  ミスメイトの直後に使われる薬に、エストラジオールやエストリオールなど
  の卵胞ホルモン製剤があります。
  これらの薬は受精卵の輸送をさまたげて子宮に着床しないようにします。
  ただし、受精卵が着床する前、つまり妊娠と診断できる前に投与しなければ
  意味はありません。

  ほかに子宮を収縮する作用をもつジノプロスト(プロスタグランジン製剤)
  も堕胎の目的で使われます。

●陣痛促進薬

 →子宮の筋肉を収縮させる

 →陣痛(子宮の筋肉の収縮作用)が弱い出産では、陣痛促進剤として
  オキシトシンやジノプロストなどを用います。静脈あるいは筋肉に注射します。

●子宮蓄膿症治療薬

 →黄体のはたらきをブロック

 →子宮蓄膿症の治療法としては、卵巣と子宮を摘出する外科手術が一般的です。
  これには、黄体のはたらきをさまたげるジノプロストと細菌を殺す作用のあ
  る抗生物質をいっしょに投与します。同時に抗炎症薬も使われます。

☆使用のときの注意

 避妊薬は長期にわたって投与しますし、ホルモンのバランスをくずす
 はたらきをもつため、副作用が心配されるところです。
 しかし、いまのところ、避妊薬の使用によるこれといった変化は知られて
 いません。
 子宮の病気(子宮内膜炎や子宮蓄膿症など)や乳腺腫瘍などがふえた
 という報告もありません。

 それに、卵巣摘出などの外科的手段を選んでも、やはり性ホルモンの
 バランスがくずれますから、手術の方が望ましいというはっきりした
 根拠もないのです。

 今後これらの問題に対するくわしい調査が必要になるでしょうが、
 現時点では、どちらの方法を選択するかは飼い主の判断にまかされています。

 堕胎薬として使われる卵胞ホルモンの副作用は強く、注意が必要です。


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