アレルギーの薬

 
 
 
 
 
動物の体には、外から入ってくる異物を排除して自分の体を守ろうとする
しくみがそなわっています。これを免疫反応といいます。
たとえば、異物を呑みこんだり異物に皮膚がふれたりすると、
炎症反応がおこります。

ふつうは、こういった免疫反応は体にとって必要な作用です。
というのも、この防御システムがはたらくことによって、動物の体は侵入
してくる異物、あるいは病原菌を排除することができるからです。
しかし、ときにこのしくみが必要以上にはたらいて、はげしい症状をひきおこす
ことがあります。これが「アレルギー」です。

非常に多くの物質がアレルギー反応をひきおこす原因となります。
その原因となる物質を「抗原」とか「アレルゲン」といいます。

たとえば、ノミがイヌの血を吸うときにその唾液がイヌの皮膚に入り、
それがアレルゲンとなってイヌの体にアレルギー反応をひきおこします。
また、ある特定の食べものに対してアレルギーをおこす場合もあります。

イヌの皮膚炎をおこすアレルゲンの中でやっかいなのが、「ハウスダスト」
とよばれる室内のホコリです。
これには、ダニの死骸や排泄物、カビ、敷物や衣服の繊維、観葉植物の種など、
じつに多くの種類の物質がふくまれています。
これらのどれもがアレルゲンとなる可能性があります。

また、食器や首輪などが原因でおこることもあります。
このような物質に長くふれていると、敏感なイヌではしだいに皮膚の細胞が
これらを異物とみなすようになり、アレルギー性の炎症反応をおこすのです。

このような、アレルギーの治療には、抗ヒスタミン薬などのアレルギー反応を
おさえる薬(抗アレルギー薬)と副腎皮質ステロイド剤(副腎皮質ホルモン)などの
炎症をしずめる薬(抗炎症薬)が使われます。

さらに、アレルギー性の皮膚炎などに対しては、二次的な感染による患部の
悪化を防ぐために抗生物質などの抗菌薬が使われることがあります。
消毒剤のヒビテンなども患部の消毒に有効です。
そのほか、抗炎症作用をもつビタミンB6などのビタミン剤や脂肪酸を
投与することもあります。


●抗アレルギー剤

 →化学物質をブロックする

 →アレルギー反応には体内(おもに肥満細胞)で作られる多くの物質が
  かかわっています。
  ヒスタミン、セロトニン、キニン、プロスタグランジン、ロイコトリエン
  などです。

  これらの物質がつくられるのをさまたげたり、つくられてもその細胞の外に
  出ないようにしたり、あるいはアレルギー反応に関係する細胞に作用できな
  いようにすることによって、アレルギー反応をおさえることができます。
  このようなはたらきをもつ薬を抗アレルギー薬といいます。

  ▲抗ヒスタミン薬

   肥満細胞から多量のヒスタミンが放出されます。
   抗ヒスタミン薬は、ヒスタミンが作用する細胞(H1受容体)に
   先まわりしてそこに結合し、ヒスタミンの結合をブロック(妨害)して
   はたらかなくする薬です。

   アレルギー反応による軽い皮膚炎とかゆみにはこの薬がよく効きますが、
   炎症がひどくなったり慢性化してしまうとあまり効果がありません。
   抗ヒスタミン薬にはクロルフェニラミン、ピリラミン、
   ジフェンヒドラミン、メクリジン、プロメタジンなどがあります。

  ▲アレルギーメディエーター遊離抑制薬

   アレルギーの治療だけを目的に開発された薬です。
   これらをとくにせまい意味で抗アレルギー薬とよぶことがあります。
   これらのアレルギー専門薬は肥満細胞などの細胞膜を安定させ、
   アレルギー反応に関係する物質の生成や放出をおさえます。
   なかには、ヒスタミンやロイコトリエンの細胞膜への結合をおさえる
   はたらきをもつものもあります。

   これらの薬は副作用も少なく、理論的には非常にすぐれた薬なのですが、
   実際の効果はあまり強くありません。
   そのため単独で用いられることは少ないようです。
   クロモグリク酸ナトリウム、ケトチフェン、トラニラストなどがあります。


●抗炎症薬

 →炎症を強力におさえる

 →炎症をおさえる薬にはステロイド系と非ステロイド系の2つの種類があり、
  アレルギーの治療にはおもにステロイド系を用います。

  ▲副腎皮質ステロイド薬

   腎臓の上にある副腎といわれる小さな臓器では、
   糖質コルチコイドといわれる強い抗炎症作用をもつ物質、
   ステロイドがつくられています。
   ステロイドはさまざまな作用をもつため、これをそのまま使うと
   副作用がおこります。
   そこで抗炎症作用だけをもつように合成された副腎皮質ステロイド薬
   がつくられました。

   この薬は免疫のはたらきをおさえる作用などももち、アレルギー性の
   炎症に対して非常に強い効力を発揮します。
   作用の持続時間や効きめの強さに差があるいろいろなタイプがあり、
   症状によって使い分けます。
   ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾンなどがあります。


使用のときの注意

 イヌのアレルギーに対して処方される薬は、飲み薬として与えられることが
 多いようです。
 人間では、軟膏やクリーム剤が多いのですが、イヌの場合、皮膚に塗っても
 薬をなめてしまい、効果がないどころかかえって患部を不潔にして悪化させる
 ことがあるためです。

 抗ヒスタミン薬には副作用があり、眠気をもよおします。
 風邪薬などにもふくまれている抗ヒスタミン薬の副作用は、人間では問題に
 なることがありますが、イヌの場合はあまり心配はないでしょう。
 ただし、ある種の抗ヒスタミン薬は妊娠中のイヌに与えると胎児の奇形
 (口蓋裂など)をひきおこす危険性があるといわれており、妊娠の可能性のある
 イヌには投与をひかえるべきです。

 副腎皮質ステロイド薬のはたらきはきわめて強力で、これを使うと炎症の症状は
 ほぼ完全に消えてしまいます。
 しかし、この薬の使用で問題なのが「耐性」と「リバウンド(はね返り)」です。

 耐性は、同じ薬を長期にわたって使っているとしだいに効果がうすくなり、
 量をふやさないと同じ効果が得られなくなる現象です。
 また、この耐性が出たあとにおこるリバウンドはいっそうやっかいです。
 これは、薬を急にやめると、治療を開始したときよりも症状がかえって
 悪化してしまう現象です。

 したがって、副腎皮質ステロイド薬を用いるときは、見通しもなくただ
 漫然と使いつづけることはひかえなければなりません。
 この薬を使って症状が軽くなったら、ほかの治療手段を併用しながらしだいに
 薬の量を減らしていく、あるは毎日ではなく1日おきの投与に切りかえる、
 などの方法がとられます。

 また、まだ一般的な治療法として確立されているわけではありませんが、
 免疫療法(減感作療法あるいは脱感作療法という)があります。
 原因となるアレルゲンをつきとめ、これを少しずつしだいに量をふやしながら
 イヌに注射して、アレルゲンに対する反応(感受性)を少なくしようという
 ものです。

 ただし、この治療は効果を得るまでに長期間かかるので、日本ではあまり
 おこなわれていません。

 アレルギーの治療で大事なことは、アレルギーの原因となるアレルゲンを
 見つけ、これを遠ざけることです。
 たとえばノミの寄生が原因なら、イヌの体や生活環境からノミを駆除すれば
 アレルギー症状は出なくなります。

 しかしハウスダストのように複数の物質がアレルゲンとなっている場合、
 これらを完全に除去したり遠ざけたりすることは非常に困難です。
 そのため治療は長引くことになります。

 また、抗アレルギー薬、その作用のしくみからもわかるように、アレルギー
 おこすイヌの体質(アトピー性素因といいます)を変えるものではありません。
 したがって、原因を残したまま薬の投与をやめれば、ふたたび同じ症状が出る
 可能性が大きいといえるでしょう。
 
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