ケガと手術の薬(外部治療)

 
 
 
 
 

外科的な治療では、ケガなどで生じた炎症をやわらげたり、細菌による感染を予防したり、傷の痛みをとりのぞくための薬が使われます。

体の組織が傷つき細菌や有害な物質にさらされると、これらの異物を排除し、傷ついた組織をもとにもどすための炎症反応がおこります。これには急性の反応と慢性の反応があります。組織に炎症がおこると、血流が増加して赤くなり(発赤)、血液の液体成分が血管の外にもれ出て腫れ(腫脹)が生じます。さらに患部は熱(発熱)をもち、痛みも出てきます。

炎症反応は動物が生きていくうえで不可欠な防御機構ですが、ときにはそれが必要以上にはたらくことがあります。そうなると、かえってまわりに正常な組織に悪影響をおよぼし、傷の治りを悪くしてしまいます。そこで治療が必要になります。

痛みは、体に損傷があることを教える警鐘です。しかし、病気になったりケガをしたイヌにとって苦痛は耐えがたいものですから、それをとりのぞいてやることが必要です。

イヌは痛みを言葉で表現することはできませんが、痛みがあると、食欲が低下したり元気がなくなったり、いら立ってかみつく、ひっかくなどの行動をとります。私たちはイヌのようすを観察することで、イヌが痛みを感じていることを知ることができます。

外科の治療でよく用いられる薬には、抗生物質、抗炎症薬、鎮痛剤、抗ガン剤などがあります。

 


●抗生物質/合成抗菌薬

 →殺菌と二次感染の予防

 →外科でもっとも多く使われるのが細菌を排除する抗生物質の合成抗菌薬です。
  これらは経口剤、軟膏、注射剤として投与します。外傷や化膿の治療だけで
  なく、手術後の細菌による二次感染を予防するためにも用います。

  いちばんよく使われるのが、ペニシリン系の抗生物質です。
  皮膚に感染して化膿をひきおこす黄色ブドウ球菌に対してとくに効きめが
  あるからです。アンビシリン、アモキシシリンなどがあります。

  しかし、ペニシリン系の薬に耐性をもつ細菌も少なくありません。
  そこで、セフェム系の抗生物質(セフェレキシン、セファクレル、セファロン
  など)や、ニューキノロン系の合成抗菌薬(オフロキサシン、ノルフロキサシン、
  エノキサシン、レボフロキサシンなど)も、広く使われます。

  体に塗る軟膏として用いられる抗生物質には、フラジオマイシンや
  ゲンタマイシン、クロラムフェニコールなどがあります。

●抗炎症薬

 →炎症と痛みをやわらげる

 →炎症をしずめる薬です。
  抗炎症薬には非ステロイド系とステロイド系(副腎皮質ステロイド薬)があり、
  外傷、打ち身、ねんざなどによる組織の損傷が原因の炎症にはふつう、
  非ステロイド系を用いられます。

  ▲非ステロイド系抗炎症薬

   炎症ができるときにつくられるプロスタグランジンの合成をはばんで、
   炎症をしずめます。
   炎症の痛みにもプロスタグランジンが関係しているので、鎮痛作用も
   発揮します。
   アスピリン、インドメタシン、ジクロフェナクナトリウムなどがあります。
   新しい薬として、フルニキシン、ケトプロフェン、カルプロフェンがあり、
   よく使われています。

  ▲副腎皮質ステロイド薬(ステロイド系抗炎症薬)

   腎臓の上にある副腎でつくられるステロイドのもつさまざまな作用のうち、
   抗炎症作用をもつように合成された薬です。
   アレルギーをふくむすべての炎症に対してきわめて強い効力を発揮します。
   デキサメタゾン、プレドニゾロンなどがあります。


●鎮痛薬

 →病気や術後の痛みをとる

 →痛みが強いときや手術後の痛みを軽減するために使われます。

  ▲非ステロイド系抗炎症薬
   抗炎症薬として使われる非ステロイド系の薬は、いずれも鎮痛作用を
   もっています。
   一般の非ステロイド系の薬には、ひどいケガや手術後の強い痛みには
   効果がありません。
   しかし、ケトプロフェンやカルプロフェンの作用は強いので、手術後の
   鎮痛を目的として使われます。
   これらの薬は解熱作用もあるので、解熱鎮痛薬ともよばれます。

  ▲麻薬性鎮痛薬

   麻薬であるモルヒネやペチジンにはすぐれた鎮痛作用があり、
   手術後の痛みをとるために使われますが、嘔吐や排便をひきおこしたり、
   呼吸がうまくいかなくなるなどの副作用が出ます。
   また、投与直後に短い興奮期があり、唾液をたくさん出します。
   麻薬性鎮痛薬の使用にともなうこれらの症状をおさえるため、同時に
   アトロピンを投与します。

   フェンタニルの鎮痛効果は強く、イヌに対してよく用いられますが、
   これを投与されると音に対して敏感になるので、同時にドロペリドールや
   アセプロマジンなどの鎮痛薬を与えます。

   麻薬性鎮痛薬は管理がたいへんむずかしいので、一般の動物病院では
   あまり使われません。

  ▲非麻薬性鎮痛薬

   法律上、麻薬とみなされない合成の鎮痛薬として、ペンタゾシン、
   ブトルファノール、ブプレノルフィンなどがあります。

●麻酔薬

 →手術や抜歯、検査に使用

 →動物病院で手術をおこなう際に麻酔薬を用いることがあります。
  ほかにも、傷の手当てや歯の治療(抜歯や歯石の除去)、X線撮影など、
  イヌの体を固定する目的でも麻酔薬や鎮痛薬がよく使われます。

  ▲麻酔薬(注射薬)

   手術時に注射によって投与するものにケタミン、チオペンタール、
   ネンブタール、プロポフォールなどがあります。
   これらの麻酔薬は簡単な外科的処置をおこなう際にも使われます。

   とくにケタミンは安全性にすぐれ、よく用いられますが、麻酔からさめる
   ときに幻覚をひきおこし、弱いけいれんのような症状もおこします。

   動物病院で手術を受けたイヌが、しばらくしてからこのような症状を
   見せることもありますが、心配はいりません。
   このようなときには静かで暗い場所に寝かせ、刺激しないようにします。
   この副作用を防ぐため、同時に精神安定剤を投与することもあります。

  ▲ガス麻酔薬

   エンフルラン、イソフルラン、セボフルラン、ハロタン、
   亜酸化窒素(笑気)などがあり、状態によって使い分けます。

  ▲局所麻酔薬

   注射をした周囲の一部だけが麻酔される薬で、プロカイン、ジブカイン、
   リドカインなどがあります。
   神経の興奮が伝わるのをさまたげることによって、神経をまひさせます。
   簡単な手術に用いられます。

●鎮静薬

 →動物の動きをにぶらせる

 →麻酔薬のように意識を失わせることなく、動物の動きをにぶらせる薬です。
  軽い手術や検査のときに、イヌの体を保定するために用いられます。
  これにはアセプロマジン、キシラジン、メデロミジン、ジアゼバム、
  ドロペリドール、クロルプロマジンなどがあります。
  また、鎮静薬は麻酔薬の導入をスムーズにすることを目的として、
  麻酔の前に使用することもあります。


☆使用するときの注意

 抗生物質や合成抗菌薬の副作用として、ショックやじんましんなどがあります。
 このような症状があらわれたら、すぐに薬の服用をやめ、獣医師の指示を
 あおいでください。

 非ステロイド系抗炎症薬の副作用として胃腸障害があります。
 この薬は消化管の粘膜を保護するはたらきをプロスタグランジンE2の合成を
 さまたげるからです。
 また、長期にわたって使用すると別の副作用として腎障害(アスピリン腎症)
 をおこします。

 副腎皮質ステロイド薬にはさまざまな副作用があります。
 また、薬の使用つづけると、しだいに量をふやしていかないと効果がなくなる
 「耐性」や、投与を急にやめると症状がかえって悪化する「リバウンド
 (はね返り)」がおこります。
 ステロイド系抗炎症薬を使う場合は、ほかの薬と併用したり、投薬の
 スケジュールを工夫するなどの配慮が必要です。

 獣医師は鎮痛薬を用いる際に、イヌの痛みをやわらげることが本当によいこと
 なのかどうか、よく考えてから使用します。
 人間の場合、痛みがとれても傷が治っていないことを知っていれば、
 安静にしていようと考えますが、イヌではそのような配慮ははたらきません。
 そのため、目の前の痛みをとることで、かえってイヌの病気やケガを悪化させて
 しまうことがあるからです。

 しかし人間と同様、イヌにとっても、はげしい痛みはたえがたいものであること
 にかわりはありません。
 痛みをとることによって傷の治りが早まるともいわれています。
 とくに手術後などは痛みに対する十分な配慮が必要です。


 
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