ガンの薬(抗ガン剤)

 
 
 
 
 
脳の神経細胞など一部の細胞をのぞいて、動物の体のすべての細胞はつねに
分裂してふえること(増殖)をくり返し、新しい細胞は、古くなり弱った細胞と
入れ代わっています。
このような細胞の死と再生には一定の秩序とバランスがあり、それらが守られる
ことで臓器の正常なはたらきが保たれています。

ガン細胞(悪性腫瘍細胞)とは、これらの細胞がさまざまな原因によって増殖の
歯止めを失い、無秩序にふえつづけていくもののことです。

ガン化した細胞は正常な細胞がもっていた機能をはたせなくなり、まわりの
組織にまで入って害をおよぼし、ついにはその動物の生命を奪ってしまうことも
あります。

腫瘍には良性のものと悪性のものがあり、比較的おとなしい良性の腫瘍はしだいに
増殖してかたまりをつくるものの、かたまりの境界がはっきりしていて、
そこからはみ出ることはありません。
これに対して悪性の腫瘍(ガン)は、かたまりをつくるとそこからはみ出してまわりの
組織へと広がっていきます。
このようにまわりの組織をおかす性質のことを「浸潤性」といいます。

組織へ浸潤したガン細胞が血管やリンパ管に入ると、血液やリンパ液によって
別の組織へ運ばれます。
ガンはこうして転移し、全身に広がっていくことになります。

イヌによくみられるガンには、皮膚ガン(脂肪腫、扁平上皮ガン、黒色肉腫、
乳頭腫、肥満細胞腫など)や乳ガンなどの「円形ガン」と、血液のガンといわれる
白血病やリンパ腫があります。

固形ガンがあることがわかれば、獣医師はまずこれを切除することを考えます。
しかし、ガンが拡大していたりほかに転移していたりしてすべてを切除できない
場合には、補助療法として放射線治療や、抗ガン剤による薬物治療をおこないます。
 

●抗ガン剤

 →ガン細胞の増殖をはばむ

 →ガン細胞は非常に分裂さかんな細胞です。
  抗ガン剤は正常な細胞にはそれほど効かず、ガン細胞にのみ毒性をもち、
  その分裂をはばむ薬です。
  とくにイヌのリンパ腫には対しては抗ガン剤がよく効き、完全に治癒する
  こともあります。

  抗ガン剤は、次にあげるように多くの種類があります。


  ▲アルキル化剤

   ガン細胞の遺伝子であるDNAの複製をはばみ、細胞が分裂できないように
   します。
   シクロフォスファミド、ダカルバジン、クロラムブチルなどがあります。
   これらのうちシクロフォスファミドは、動物の治療薬としてはもっとも
   一般的な薬です。
   リンパ腫にもっとも効きめがあり、白血病にも効果があります。

  ▲代謝拮抗剤

   ガン細胞の核酸の合成をはばむことによって、その増殖をさまたげます。
   これにはメトトレキサートやシタラビンなどがあり、リンパ腫の治療に
   よく用いられて非常に高い効果をあげています。

  ▲抗ガン性抗生物質

   土壌の中にいる細菌がつくる化合物で、ガン細胞のDNAにくっついて
   その複製をはばみます。
   人間のガン治療では現在知られる中でもっとも有効な薬といわれていますが、
   動物の治療ではあまり使われていないようです。
   アクチノマイシンD、ブレオマイシン、ドキソルビシンなどがあります。

  ▲ビンカアルカロイド

   植物からとり出された化合物で、ビンクリスチン、ビンブラスチンなどが
   あります。イヌの場合には、性器のガン(可移植性性器肉腫)に対して高い
   治療効果をもつことで知られます。

  ▲その他の抗ガン剤

   乳ガンや前立腺ガンなどの生殖器にできるガンには、性ホルモンが
   関係しています。
   これらのガンの治療には、性ホルモンのはたらきをはばむ薬が使われます。
   細胞に対する毒性はない代わりに、副作用として個体の中性化(オスの乳房
   がふくらむ、メスが筋肉質になるなど、オスらしさやメスらしさを失う)が
   おこります。

   また、造血器にできるガンには、プレドニゾロンやデキサメタゾンなどの
   副腎皮質ステロイド薬が用いられます。

   ☆使用のときの注意
    ①どのくらいの量
    ②どのくらいの間隔
    ③どのような組み合わせ
    で使うかが重要であり、これには高度な専門知識が求められます。
    とくに抗ガン剤は副作用が出はじめるぎりぎりの量を投与する必要が
    あるとされ、厳重な管理のもとで治療をおこなわねばなりません。

    正常な体では、消化管の内側の粘膜細胞と白血球や赤血球などをつくる
    造血細胞が、つねに細胞分裂をくり返しています。
    抗ガン剤はさかんに分裂する細胞すべてにはたらくので、これらの細胞
    にも作用して破壊してしまいます。

    その結果、たとえば消化管の粘膜がそこなわれると、食欲が低下し、
    下痢や嘔吐がおこります。
    また造血細胞がそこなわれると、白血球や血小板が減少して免疫の
    はたらきが弱まり、感染症にかかりやすくなったり、出血しやすく
    なったりします。

    しかし、制吐薬(吐き気止め)や止瀉薬(下痢止め)、粘膜保護剤、
    抗生物質、粘膜賦活(活性)薬などを投与したり、輸液をおこなったり
    することによって、これらの副作用をやわらげることができます。

    一般にイヌは、人間とくらべて抗ガン療法によく耐えるといわれています。
    抗ガン剤の投与をはじめる前に、副作用を助長するような合併症(感染症や
    他の慢性疾患)をおこしていなければ、ほとんどのイヌは抗ガン剤による
    治療中もふつうの生活を送れるようです。


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