心臓の薬

 
 
 
 
 
イヌが心臓の病気にかかったり血管の異常をおこして、心臓に大きな負担が
かかる状態が長くつづくと、心臓が疲労して正常な機能をはたせなくなります。
このような状態を「心不全」といいます。
老化が進んで動脈硬化になると、血液を送り出すためにより大きな力が必要と
なるため、心臓が疲労します。
これに心臓の弁がうまく働かない病気(心臓弁膜症)が重なると、血液が逆流
して心臓にさらに負担がかかります。
あるいは、心臓自身に血液を送る血管(冠状動脈)がつまって心臓の筋肉(心筋)
に酸素や栄養が十分にとどかなくなり、心筋細胞が死んで、心臓が弱まることも
あります。
心筋細胞は非常に複雑なつくりの細胞なので、一度死ぬと基本的に二度と再生し
ません。

このように、心不全はいろいろな原因でおこります。
かつてはイヌの心不全の最大の原因はフィラリア症でしたが、最近では心臓弁膜
症が原因で心不全になるケースが増えています。
とくに老齢の小型犬に多くみられるのが、4つある心臓の弁のうち僧帽弁がうま
く閉じなくなる「僧帽弁閉鎖不全」です。

心不全は症状によって3つの段階に分けられます。
心臓に異変がおきてもただちに症状が出るわけではありません。
これは、血液を送り出す心臓の力にかなりの余力があるためです。
この段階を「クラス1」といいます。

しかし症状が進むと、イヌはしだいに少しの運動でも息切れするようになり、
肺に浮腫(むくみ)が生じて気管を圧迫するためせきが出て、軽い腹水もみられ
ます。これが「クラス2」です。
さらに進むと、浮腫が全身に広がり、呼吸困難の症状があらわれ、「クラス3」
となります。

心不全ははじめは気付かれにくいのですが、非常に重い病気です。
適切な治療をしないと短期間のうちに進行し死亡するおそれがあります。
ほかに症状があらわれない初期の段階で発見されるのが望ましく、治療開始が
早ければ早いほど効果が高まります。

心不全やの薬には、心臓のはたらきを高めるタイプと心臓の負担を軽くする
タイプの2種類があります。
 
 

●強心薬

→心臓のはたらきを高める

→心臓の機能を高める薬です。代表的なものにジギタリス製剤があります。
 これらは糖をふくむため強心配糖体ともよばれ、ジゴキシン、ジギトキシン、
 メチルジゴキシン、コンバラトキシン、などの多くの種類があります。
 動物医療では、このうちジゴキシンがもっとも多く使われます。
 強心薬には次の3つの作用があります。

 ① 筋の収縮力を高める。

 ② 心拍数を減らす。

 ③ 心臓の中で発生する刺激の伝わり方を遅くする。

 心臓病の治療に①が有効であることはすぐにわかりますが、②の作用も
 同じくらい重要です。

 心臓はポンプのように収縮と拡張、つまり縮んだり広がったりをくり返して
 血液を送り出しており、心臓が拡張するときに内部に血液をたくわえます。

 このとき心筋が十分に拡張すれば、次に送り出す血液の量がふえることに
 なります。
 しかし心拍数が多いと、心臓が十分に拡張する前に収縮してしまうので、
 送り出す血液量が少なくなり、血液を全身に効率よく供給することができ
 ません。②の作用はこれを改善します。

 作用は心臓の不規則な拍動(不整脈)をおさえます。これら3つの作用が
 強調してはたらいて、弱った心臓の機能を高めます。

 強心配糖体は比較的重症の心不全に用いられます。
 ほかに急性の心不全の治療薬として、イソプロテレノールやドーパミンなどの
 ベータ刺激剤があります。これらは緊急時に点滴で用います。
 

●血管拡張薬

→血管を広げ、血圧を下げる

→心臓は血液を送り出すポンプであり、血管は血液の流れるパイプです。
 パイプの径が細いと心臓はより大きな力で血液を送り出さなくてはなりません。
 血管拡張薬は動脈の血管を広げて血液を通りやすくすることで、心臓の負担を
 軽くします。

 また、血管拡張薬には静脈の血管を広げて、もどってきた血液をたくわえるス
 ペースをつくる作用もあり、これによって心臓の負担はさらに軽くなります。

 このようにして、心臓のはたらきに直接影響を与えずに血圧を下げると、心臓
 にかかる負担が軽くなって、全身の血液循環が改善されます。
 代表的な血管拡張薬には次のような種類があります。


 ▲アルファ遮断薬

  交感神経は動物が活動しようとするときにはたらく神経で、
  いわば自転車のアクセルのような役目をします。

  このとき、脳からの命令で交感神経の末端からノルアドレナリンという
  物質が、また副腎(腎臓の上にある小さな器官)からはアドレナリンと
  いう物質が分泌され、それらが細胞を刺激して色々な作用をします。
  アドレナリンとノルアドレナリンにはアルファ作用とベータ作用の2つ
  の作用があります。
  心臓ではベータ作用がみられ、心筋の収縮を活発にします。
  一方、血管ではアルファ作用がみられ、血管を収縮させて血圧をあげます。
  血管に対するこのアルファ作用を抑える薬がアルファ遮断薬で、プラゾシン、
  ブナゾシンなどがあります。これらの薬は血管を強力に広げます。


 ▲アンギオテンシン変換酵素阻害薬

  動物の体内には血圧を調節する複雑なシステムがあり、
  その中で血管を収縮させる効果を持つ物質がアンギオテンシンⅡです。

  このアンギオテンシンⅡは、生体内でアンギオテンシン変換酵素(ACE)と
  よばれる酵素によってつくりだされます。
  この変換酵素にはたらいてアンギオテンシンⅡの生成をさまたげ、血管を拡
  張させる効果をもつのがアンギオテンシン変換酵素阻害薬です。

  これにはカプトプリル、エナラプリル、ベナゼプリルなどがあります。
  これらはある種のヘビがもつ毒(獲物にかみついて毒液を注入し血液を
  下げる)をヒントに合成されたユニークな薬です。

  またアンギオテンシンⅡには、血管を収縮する作用だけでなく、血管の細胞
  の増殖をさかんにして動脈硬化をもたらす作用や心臓肥大をさらに進める作
  用があります。
  アンギオテンシン変換酵素阻害薬を投与すると、これらの病変の進行をおさ
  えることにもなるので、循環器系の病気全般に非常に有効です。

  以上のことから、この薬はイヌの僧帽弁閉鎖不全にともなう心不全の治療に
  もっとも多く用いられ、効果を上げています。


 ▲カルシウムチャンネル阻害薬

  血管を作っている筋肉である血管平滑筋は、細胞内のカルシウム濃度が
  上昇すると収縮し、血管を細くします。
  カルシウムチャンネル阻害薬は、このカルシウムの通り道(カルシウム
  チャンネル)をふさいでカルシウム濃度を下げ、血管平滑筋の収縮を妨
  げて血管を広げます。

  カルシウムチャンネルは心筋の細胞にもあり、この薬を投与すると心筋
  の活動がおさえられます。
  とくに刺激伝導系という心臓の歩調取りをする特殊な心筋細胞に対して
  よくはたらくため、心不全でしばしばみられる不整脈の症状をおさえる
  という特徴があります。

  さらに、心臓自身に血液を送る冠状動脈を広げる作用があり、心筋への
  酸素や栄養の供給が改善されます。
  カルシウムチャンネル阻害薬には、ベラパミル、ジルチアゼム、ニフェジ
  ピンなどがあります。
  このうちベラパミルとジルチアゼムは主に心臓に作用し、ニフェジピンは
  血管を拡張させる作用が大きいといわれています。


 ▲ニトロ化合物

  ニトロ化合物には血管を広げる作用があります。
  薬として使われるものには、ニトログリセリン(爆発の危険をなくし安全に
  使用できるように製剤化したもの)、硝酸イソソルビドジニトレーロ・ニコ
  ランジル、ニトロプルシドなどがあります。
  
  ニトロ化合物は、とくに心臓の冠状動脈に対する拡張効果が高いため、人間
  の狭心症の治療にも使われています。
  イヌの場合は重症の心不全の治療に注射や点滴で用います。


 
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