乳腺腫瘍
猫の乳腺腫瘍は、造血器系や皮膚などの腫瘍についで多く認められる。
しかし犬の乳腺腫瘍の発生率にくらべると、猫では半分以下の発生率である。
しかし犬の乳腺腫瘍では50%以上が良性であるのに対し、猫では70~90%が
悪性である。
猫の乳腺は通常4対である。単独の乳腺に腫瘍の発生をみることもあるが、
多くの場合は複数の乳腺がおかされるようである。
【原因と特徴】
乳腺腫瘍のはっきりとした原因はいまだ不明であるが、人や犬と同様に
プロゲステロンやエストロゲンなどの性ホルモンがその発生に関与して
いるものと考えられている。
猫の乳腺腫瘍は70~90%が悪性のがんである。
そのため、腫瘍を摘出しても予後はよくない。
一般に避妊手術を受けていない雌によく発生するが、ときとして避妊済の雌、
まれには雄にも本腫瘍が認められる。
しかし、避妊手術を実施しても腫瘍の再発率は減少しない。
一方、多くの乳腺腫瘍の猫には卵巣嚢腫や子宮疾患が存在しているため、
避妊を実施すべきとの意見もある。
腫瘍の発生年齢は9カ月から23歳で、平均10~12歳である。
【症状】
乳腺腫瘍の症状は乳腺部の腫れやしこりが主なものである。
腫瘍は局所性に大きくなるが、リンパ管にも浸潤するため結果として
じゅず状もしくは直線状の形態を示すこともある。
また、腫瘍細胞がリンパ管を閉塞させたり、血行を障害させるため腫
瘤部の変色、浮腫、後肢の血行障害をひきおこす。
このような障害をおこした乳腺部の乳頭は赤く腫れ、黄色または黄褐色
の滲出液がでることもある。
腫瘍部の潰瘍形成も1/4以上の症例で認められている。
肺転移は高率に発生する。
まれな例ではあるが、乳腺の非腫瘍性変化として嚢胞、乳腺の過形成、
乳腺炎がある。
これらも乳腺腫瘍と同様な症状を示すため鑑別診断を十分に行うとともに
腫瘍性疾患と同様に処置することが望ましい。
【治療と予後】
猫の乳腺腫瘍の手術法としては片側全摘出もしくは両側全摘出がある。
まれには部分摘出を行うこともある。
摘出時に乳腺の所属リンパ節が確認されたならば、そのリンパ節も乳腺と
同時に摘出すべきである。
猫の乳腺腫瘍の80%以上が腺がんであるため、腫瘍摘出術をうけた猫の
約66%に再発が認められている。
シクロホスファミドやドキソルビシンなどを用いた化学療法は短期的
もしくは一部の猫には効果がある。
しかし、症例によってはその副作用のため生存期間を十分に延長させることが
できない。猫の乳腺腫瘍に対する化学療法は今後さらに検討する必要がある。
予後にもっとも関係するのは腫瘍摘出手術時の腫瘍径である。
ある報告によれば、腫瘍径が3cm以上のときは術後の平均生存期間は6カ月、
腫瘍径が2~3cmのときは2年、腫瘍の大きさが2cm未満であれば約3年である。
肺転移がある場合は2カ月未満である。
すなわち、人のがんと同様、猫の乳腺腫瘍も小さなうちに発見し、摘出すれば
延命効果が期待できる。